ファシズムの誕生―ムッソリーニのローマ進軍

本書はムッソリーニの政権奪取を時系列順に詳説したものである。日本では等閑視されているファシスト党だけに期待は大きかった。しかし内容は如何なものか。この本では、ムッソリーニがひたすら利己的に権力を奪取したか様に書かれている。政権は巧妙な詐欺師にして悪魔の如き野心家・ドゥーチェによって簒奪された、と言いたい様だ。だが歴史はそれ程に単純なものだったのだろうか？どうやら著者は善悪に対する強い拘りを持って執筆したらしいのである。この本に於ける悪は無論ムッソリーニだ。文中ではその同調者による暴力行為が当時の社会や原因を全く無視してただ詳述されている。悪人を吊るし上げる快感に酔っている風でさえある。処がでは善はといえば、それが実はイタリア人民であるというよりは第三インターナショナルなのである。恐らく著者には若きソヴェトへの憧憬があるのだろう。行間にはイタリア赤色革命に失敗した社共への哀歌が滲んでいる。誠に珍奇な本であるという他はない。残念だ。