天然薬物事典

この普及版を、神田の古書街で手に入れたのは15年ほど前のこと。ハーブや自然療法という言葉さえ、医療業界としては魔女狩りに遭うような時代で、まだ市民権を得たという状態にもなっていなかった。表紙もシンプルで、いかにも学術書であり、見た目に面白く無い本だった。植物・動物・鉱物と、全般的な天然薬について広く浅く学術的に書かれており、「事典」という感じの色気のない本です。しかしながら、ブームやイメージに押し流される以前の本であるこれは、ブームを批判するでなく淡々と知られている事実が書いてあり、わたしには貴重で役立つ本だった。最近の「生薬単」なんて本も、写真や図が多くて楽しいけれど、いかんせん、いらぬ（というより、あとで知ればいいような）雑学が多くて、学術書としては無駄が多い。こういう硬派な本も必要ではないかと思う。扱っている範囲が広すぎるせいか、個々の項目については情報は十分ではない。だが、生薬を調べる目的はひとそれぞれだ。ここを足がかりにして、自分が専門とする本に飛べば良い。わたしはこの本から多くのヒントをいただいた。