追憶の鉄路―北海道廃止ローカル線写真集

「地図の中の札幌」をカートに入れた後、表示された本も何気なくカートへ入れただけだったのに、今朝届いた箱を開けると表紙が声問駅。「あっ」と思わず声が出ました。慌てて開くと巻末には駅長さんの日々を写した「声問駅回想」があり、あとがきには、その駅長さんとご近所の方のふれあいを撮った写真がきっかけになり、この本をまとめることになったとまで書いてあります。…大変個人的なことになりますが、13、4歳の頃、まだ珍しかった登校拒否、今で言う不登校をし、親と通わされた病院の許可をもらって、一人旅ばかり繰り返していました。周りの大人を拒否し、どこか遠くへ行きたい一心だったのかもしれません。まだ国鉄時代の話です。何を感じとったのか、厳冬の北海道が好きになり、冬になると周遊券を片手に、お金を節約するため車中泊を繰り返す日々が続きました。利尻はもちろん、天北線や急行天北にも何度か乗ったように思います。そんな中、待合室に座っていると駅の中に招かれ「まだまだ列車はこないから、ゆっくり暖まっていけばいい」と、ストーブで淹れたお茶までごちそうして下さったのが、この声問駅でした。平日の昼間、ひょっこり現れた中学生を、いぶかることなく大人同様に扱って下さった駅長さん。本来なら学校へ行っている時間なのに問いただすわけでもなく、色々な話をしてくださり、あっという間に時間が過ぎていったように思います。今思うと「本当は誰かと話がしたい」という顔でもしていたのかもしれません。本書に収録されている声問駅の写真はJR化直後のようですので、数年は前のこと。駅長さんも交代するでしょうから、同じ方かどうかはわかりません。けれど「本にするきっかけになった写真」で駅長さんと話す、おばあさんの笑顔を見ていると、この方なのではないかという気さえしてきます。その後北海道好きが高じて、札幌で17年ほど暮らすことになるのですが、出会う方はみな駅長さんのようにふんわりと温かく、またお互い深入りするでもなく、昔からの知り合いのように接して下さいました。今でも大切な記憶ですが、それもこれもこの最初の「北海道人」との出会いが、その後のすべてを物語っているようにも感じます。個人的な感想だけになって申し訳ありません。まだ小さな駅にも人のぬくもりがあったころ、北海道を旅された、あるいは暮らされたお一人お一人に、様々なふれあいの思い出があると思います。吹雪の中、駅に入るとほっとしたあの時間。みなが感じていたそんな遠い記憶に、ふたたび出会うことができる写真集だと感じました。読み進むと時折現れる工藤さんのコラムにも共感するものが多く、写真からは北海道の空気感まで伝わってきます。また、道新の本がこうやって関西でも気軽に買えるというのは大変ありがたいですね。どうもありがとうございました。